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不動産取引を始める前に 

【2023年7月12日更新】

不動産業界で働き始めるまでは、不動産取引における各エージェントの役割をほとんど考えたことがありませんでした。    

随分前の話ですが、土地勘がほとんどない状態で物件を探すため、現地日系不動産会社にコンタクトすると、早速いくつか物件を紹介してくれました。内見のために現地で待ち合わせた際にも、仲介の仕組みや料金の具体的な説明はなく「日本人のお客様とは信頼関係でビジネスしてますから、契約書とかサインとか不要です。」とのこと。「ふうん、そんなものなのね。」と特に質問さえしませんでしたが、後からよく考えると、腑に落ちないことがいろいろありました。私の希望を尋ねることもなく「予算に合う」物件ばかり案内されました。当然、まったく趣味に合わない物件をいろいろ内覧することになりました。

問題が起こらない限り、うやむやな説明に基づく、ぬるま湯の取引関係はお互いに楽です。顧客一人ひとりの希望を聞いて一生懸命探すより、手元にある適当な物件を適当に手当たり次第に紹介する方が簡単です。不動産取引終了後に「結構な金額の初期費用がかかったが、こんなものなのか」と終わってしまうことが大半です。特に、勤務先が初期費用を支払う駐在員の場合、請求書の詳細を確認することもなく、家賃補助ギリギリの高額の賃貸物件を選んでしまいがち。同時に仲介手数料も最大となります。ただし、翌年の値上げにより、家賃補助を超えてしまうかもしれません。

契約社会のアメリカで不動産を買ったり、借りたりする前に、理解しておくべき点がいくつかあります。

🍏 不動産ライセンス保持者は各取引において、自分の役割を明確にする義務があります。お客様と言っても「クライアント」なのか「カスタマー」なのかによって、エージェントの業務の範囲が異なります。それを知らずにカスタマーがエージェントにうっかり話した内容が、そのエージェントにとってクライアントである物件オーナー(売主・貸主)が交渉に有利になるように伝えられてしまうリスクがあります。

🍏 仲介手数料を誰が払うのか、料金の相場はどのくらいなのかは、ニューヨーク市内であってもエリアと物件のレベルによりばらつきがあります。家主が仲介料をカバーする場合には、不動産仲介会社・エージェントは顧客にその事実を伝える義務があるものの、その情報は開示されず(賃貸契約書をよく読むと記載があるはずですが)、家主が仲介料を負担するため、借主の仲介料負担なしとなるべき物件を借りても、仲介手数料を請求される(つまり、家主と借主の両方から仲介料を受領する)ケースもあるようです。

🍏 物件購入の場合、買い手エージェントがいてもいなくても、売主が自分のエージェントに支払う仲介手数料総額は変わりません。買い手エージェントが受け取れたはずの仲介料を買い手が直接受け取ることは出来ません。売り手・買い手の双方を代理するデュアルエージェントによる両手取引はニューヨークでは合法ですが、多くの州では違法です。両者の利益を同時に最大化することは不可能だからです。

🍏 顧客囲い込みの一環として、初期費用を立て替えたり、住宅ローンを貸し出したりと、金融業を行っている不動産会社があります。ワンストップサービスは、顧客にとって便利な一方で、後々トラブルになりかねません。「セキュリティデポジットを返さないので、取引を中止した。」という話を伺うこともあります。

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